言霊師
その一言を笑い飛ばそうとした慎だったが、それが出来ずに呆然とした表情を一瞬浮かべた。そして次の瞬間、


「戯けた事を…だから何だと言うのだ?―――行け。」


「……!?」


感情を圧し殺した低い声音の命令と共に、慎の背後から氷理達を目掛けて二つの人影が跳ぶ。それは、悠と勇次だった。


人では有り得ない跳躍をみせた二人は、明らかに操られている。その手には抜き身の刀。


「ちょっ…勇次!?何やってるのよ!」


「駄目だ…操られてる。夢芽さんは下がってて下さい。」


ジリジリと距離を詰める様子を眺めながら、慎は嘲笑った。
言霊遣いは言霊師から奪った力を得る際に、力を封じた珠(タマ)を取り込む。
殺した言霊師の心臓と共に。
それは、遣いと対立する立場の氷理や夢芽に知られていない事だ。だから、慎は教える。絶望を味わわせる為に。


「全ての言霊遣いは、私の為に在る。彼が私の命令を聞き、君らを殺しても…そう驚く事ではない。そうだろう?」


「そんな訳ないでしょう!?」


「ならば、教えてあげようか。言霊遣いについて、言霊師が知らない事を。
氷理、お前も知りたいだろう?…知って、思い知ると良い。勇次は救えない、と。」

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