言霊師
慎に捕まり、傀儡にされた勇次の耳に飛び込んだ言霊。それは、二人が自分を取り戻そうとする言葉だった。
その真剣な言霊がプツリプツリと操り糸を切り、縛から逃れる術と契機を与えてくれた。

そして、気付いた。生死すらも自分の自由にならない身なのに、何故こんなにも…逃れようともがくのか。

それは、自分を想ってくれている人がいるからだ。また、一緒に笑ったり、ふざけたり、真面目な話をしたり、そんな何気ない日常に戻りたいからだ、と。


「…驚いたな。自我を取り戻すとは。」


嘲るような笑みで、慎はそう言い放った。彼にとって、駒は何人減ろうが関係ないのだ。はっきり言えば、役に立たない有象無象などさっさと消えてくれた方が良い、とすら思っていた。


「最近の遣い達は、命じた事一つろくに出来ないような使えない奴らばかりだったが、貴様は少し骨のある奴のようだな。
―――此処で終わりとは、惜しい事をした。」


「黙れ!あんたになんか、解らないんだ。…俺は、選んだんだよ。あんたの駒として生きるよりも、俺を信じてくれた人を守るって。」


「成る程な。最期はそいつらに恩を売って散ろうというわけか。」
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