言霊師
一言主は、ヒョウリの“弱み”を知っていたからこそ、敢えてそれに触れないよう、話題を変えるのに協力した。

…何も言わないで欲しい。

そんな思いが、ヒョウリの言葉の端々に滲み出ているのに気付いたからだった。


「彼女をどうする、か。」


独り言のように呟き、遠い目をした一言主は、戻って来たムメを見やる。


そして、その瞳に影を落とした。


「―――如何なさいましたか?この人が、何か失敬な事でも?」


すぐに身を案じてくる彼女に、哀しみは雪のように積もっていく。

…ムメに、何でもない、と答えた時には、まだ彼でさえも知らなかった。


―――二人で迎える“未来”なんか、どこにもないのだという事に。
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