人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
―――ずきり。

右足に尋常ではない痛みが走る。
痛さが熱さに変わり、体中を駆け巡る。
僕は痛みに耐え切れずに、思わず悲鳴をあげ、その場に半ば倒れるかのように崩れ落ちた。








「…いっ……た…。」








痛みを堪えながら、右足にちらりと目をやる。
そして、僕の右足に起きていることを目の当たりにし、再び気絶しそうになる。
しかし、どうにか意識を保ちながら、気持ちを落ち着けて、冷静に足を正視する。




僕の右足は今、大量の血を流している。紅い血は足からだくだくと滴り、砂に吸い込まれてゆく。

………もしかすると、「大量」という表現は言い過ぎかも知れない。
しかし、僕が見て度肝も抜かれるには、十分すぎる量だった。

傷は恐らく水中で作ったのだろう、海から血痕が点々としていた。右足に刻まれた四センチ程の傷から溢れる血は、未だに止まる気配はない。




頭がふらふらしてきた。―――全く、今日はついていない。そう、脳内でぼやいてみた。

ぼやける視界の中で、僕はなんとか自分のシャツの一部をひきちぎり、足にきつく巻き付けて止血を行った。
さながら蛞蝓(なめくじ)のように砂浜を這い、近くにあった大きな岩に身を預けた。




―――このままじゃ、まずいかもしれない。本能的に、僕はそう感じた。
専門家ではないからよく分かりはしないが、血を流し続けて良いことがあるはずもなかった。
< 13 / 69 >

この作品をシェア

pagetop