人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「―――誰か、誰かいませんか?」








………他に為す術もなく、ありったけの力を振り絞り発した助けを求める声は、虚しくこだまして僕を余計に不安にさせた。誰かが来る気配も、勿論ない。

こうなってしまうと、痛みを我慢して、人がいる場所に向かうしかないだろう。今の僕には、そう決意して這ってでも進むしかなった。




………そう考え、行動に移そうとしたその時、だった。

這いつくばった僕の眼前に広がる、憎らしい程に光に満ちた世界にただ一つ、暗い影が落ちた。
僕がはっとし顔を上げると、太陽の光を後光とし、まるで神のように佇む少女が一人、僕のことをじっと見据えていた。
彼女と僕は少しの間見つめ合い、しばらくして僕から目を反らすと同時に、彼女は防波堤から岸へと下る階段に足を運んだ。








見覚えがある、その姿。

彼女は海に身を投げ、僕に口づけをした、美しい少女だった。
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