人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「…脚を、怪我しているのね………」

「え、あ、はい………」








突如話し掛けられ同様した僕は、口をもごもごしながら、自分でも聞き取れないような声量で答える。
自分が緊張しているというのは、手にとるように感じられた。

彼女は、見れば見るほど美しい少女だっ
た。まるで、神が自らの理想を結集させ作り上げたような姿をしている。








「………ここね」








彼女は僕の傷口に手を翳(かざ)す。
翳された手は雪のように白く、ぽきりと折れてしまいそうな程に華奢な手だった。

僕が見惚れていた彼女の手は、傷口の上でゆったりと円を描いたかと思うと―――白く光りだした。








「―――え?」








僕は、予想しなかった出来事の前に言葉を失った。しかし、そんなことはお構いなしに、彼女の手は未だ発光を続けている。その手は、まるでもう一つ月が生まれたかのごとく、白く輝き、僕の足を照らしていた。

僕は恐る恐る傷口に目をやる。その瞬間、僕は目を疑った。

彼女の手から発される光を浴び続けた傷は、みるみるうちに―――塞がっていった。
そして、一分程光を浴びた頃には、傷は完全になくなった。
後に残ったのは、先程まで勢いのある川のように流れていた、固まった血だけだった。








「歩ける?」








僕は驚愕していたために返事をすることも叶わず、ただふらふらと立ち上がった。
砂の感触を確かめ、足踏みをする。痛みは全くなかった。








「………大丈夫そうね。道はわかる?」

「いや、少し………不安、です」








僕は情けないと思いつつも、彼女に正直にそう告げた。それに、恥を忍んでいる程の余裕は、僕にはなかった。








「なら、私が家まで送るわ。住所は?どこ辺りに住んでいるの?」

「愛島二丁目…辺りです」

「わかったわ―――じゃあ、行きましょう」








彼女はそう言うと、くるり、と振り向き歩きだした。

僕は今起きた出来事に唖然とし、立ち尽くしていた。何度も足を見直し、嘘だろう、と呟いた。








彼女は、明らかに困惑していた僕に気がつくと、僕のところに駆け寄って、そっと手を握り、優しくひいてくれたのだった。
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