人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
彼女はそれに気づくようなそぶりもなく、相も変わらず徒競走でもしているかのようなスピードで歩を進める。








「―――あの、さ」

「………どうかしたの?」







僕は彼女に勇気を出して、話し掛けてみた。それは、女の子と話す機会が多かった訳ではない僕にとって、なかなかに緊張することだった。

すると彼女は立ち止まり、振り向いて真っ直ぐに僕を見つめた。
真正面から彼女に見つめられ、僕はどきりとした。しどろもどろになりながらも、応えてみせた。








「あ、いや………たいしたことじゃあないんだけど。名前とか、知りたいなって」








まともに目も見ず、舌を噛みそうになりながら一語一語発してゆく。なぜこんなにも緊張するのか、と自分でも嫌になる程に、今の僕の話し方は酷かった。








「―――あなたは?人にモノを尋ねるときは、まず自分から―――ってよく言うでしょう?」








彼女は特に感情を含まない声で、冷たくぴしゃりとそう言った。








「…それもそうだね。僕は『星野 流斗(ホシノ ルウト)』。今年から愛島で過ごすことになったんだ。よろしく」

「流斗、ね……。私は『水鳴 美姫(ミズナリ ミキ)』。年齢は15。こちらこそよろしく」








握手を求められ、僕は急いで手を服で拭き、彼女の手を握る。

同い年に、こんな娘がいるのか………と僕は驚いた。彼女は見た目も大人びており、性格や物腰なども落ち着いていた。
こんな娘と高校も同じだといいのだけれど、と薄い望みを抱いたりもしていた。
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