人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「そういえば、水鳴さん―――」

「美姫、でいいわ」








ただ一言、たたき付けるように言い放ち、僕の言葉は遮られる。
―――女の子を下の名前で呼んだことなんか、ないのだけれど。僕は噛むことがないように、丹念に準備してから、名前を呼んだ。








「―――じゃあ、美姫さん。さっきから聴こう、とは思っていたのだけど…」








………ちゃんと名前を呼べただろうか。自分でも、顔が熱いのを感じていた。
僕はなんと単純でウブな生き物だろうと、なぜか少し悲しくなった。








「君、防波堤から海に落ちた………よね?怪我とか、なかったの?」

「どこも怪我してないわ。あなたも、してないでしょう?………心配してくれて、ありがとう」








彼女はそう言うと、にこりと口元を綻(ほころ)ばせ、僕に微笑んだ。








「―――やっぱりあの娘は、美姫さんだったんだね。………それにしても、なんであんな所から飛び込んだの?怖くない?」

「もう馴れてるからね…。それに、流斗君こそ一度目で跳べたじゃない。その後、イロイロあったみたいだけど」








くすくすと彼女は笑う。
彼女から笑われると、なんだか非常にこそばゆい気持ちになった。
我ながら格好のつかないことをイロイロしたものだと、この短時間で成した行為を色々思い出し、また顔を赤らめた。
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