人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
僕は、彼女をちらりと見た。
僕の視線に気づいた彼女からは、先程まで発していた少し冷ややかなオーラは消え失せていた。

僕は何を考えているんだ、と頭に浮かんだ考えを打ち消し、一つ気になっていたことを彼女に尋ねた。







「―――でも美姫さん、肺活量すごいんだね?僕より先に飛び込んだのに、人口呼吸する余裕があるんだからさ。………水泳でもしてるの?」

「いいえ―――でも、水の中なら何時間でもいられるわよ」








彼女は真顔でそう言った。
………ジョークを言うような性格だとは、思わなかったけど。








「あはは、それはすごいや。前世は魚か何かだったの?」

「そうね…前世は知らないけど、現在は半分魚よ」

「………え?」








………何を言っているんだ、彼女………。
僕は戸惑い動揺し、上手く彼女を見つめることが出来なくなっていた。








「―――ねぇ、流斗君」








彼女はそんな僕の手を掴み、下から僕のことを見上げる。―――彼女の目線は、痛いほどに真っ直ぐだった。

………彼女の口から出た意外すぎる言葉は、視線と同じく真っ直ぐすぎて、僕の思考回路をまるごとえぐり取っていった。








「私が人魚…って言ったら、信じる?」








彼女は僕に静かに―――かつ強く、そう尋ねた。
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