人魚の涙 ～マーメイ・ドロップ～
「…信じて貰えないかしら」

「………っ」








僕は歯を食いしばる。
ふと視線を上げると、どこか悲しげな彼女の顔が目に入った。
僕は決断に迷った。それは当然だ、と自分自身に言い聞かせる。




少しばかり、時間が流れた。冷たい風が、僕達二人の肌を撫でた。

僕は、僕自身の決断を言うか言うまいか躊躇った。しかし、それは僕なりに考え、僕が出した、彼女への答えだった。

数分前と同じように、僕は俯いていた顔を上げた。彼女は、未だに僕をじっと見つめていた。

―――話さなくては、ならない。
彼女の目を見た途端に、躊躇する僕にどこからか、強い意思の力が働いた。僕は塞いでいた口を開く。渇いた上下の唇が、ぴたりと張り付いていた。








「―――信じられないよ」








辺りの空気が、一瞬震えた。それと共に、木々がざわめく。

彼女は、あまり表にこそ出してはいなかったが、酷く悲しんでいたようだった。
先程見た強い意思を秘めた時の目よりも、ずっと弱く、寂しそうな目をしていた。
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表紙・目次

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