人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「―――でも」








………だけど、それでも。








「美姫さんは―――もう友達、だよね?だから、その友達の言うことなら、信じられると思うんだ。さすがに、いきなり知らない人から人魚だと告げられても、ぴんとこないけれど」








僕は、苦笑して見せ、続けた。








「―――まだ、心の底から信じるのは難しいけれど、これからきっと、信じられるようになると思うから」








だから、と僕は口を開いた。








「―――美姫さんを、信じるよ」








そう言い終えた後の彼女の顔は、明らかに驚きの感情を含むものに変わっていた。きっと、僕が気味悪がると思っていたのだろう。

少しの間、石のように一切動こうとしなかった彼女の顔の筋肉が解(ほぐ)れたのか、突然とても嬉しそうな―――まるで、無邪気な子猫のような―――顔に、ころりと表情を変えた。








「―――ホントに、信じてくれる?」

「うん、もちろん。………それに、ただ漠然と信じるって言った訳でもないんだ」

「………どういうこと?」

「だって美姫さん、海に僕より先に飛び込んで、普通の人なら息が切れてしまいそうな状況で…その、僕に、き、キスして…浜辺まで運んでくれたんでしょう?それに、怪我を手を翳しただけで治してくれたし。凄く不思議な娘だとは感じていたから、そう考えると合点がいったんだ。………だから、信じようって思えたんだ」








僕が理由を述べると、彼女は可笑しそうに笑い、それもそうね、と納得した。








「………そっか………。ありがとうね、流斗君」
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