人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
楽しい時間は過ぎ、だんだんと陽が落ちてゆく。
辺りには暗闇と影が生まれ始め、美しい森も海も、闇の世界の一部に移り変わろうとしていた。
闇が広がり始めると同時に、僕の家が視界に入った。どうやら話しているうちに辿り着いていたらしい。
僕は愛しい自宅を目の当たりにして思わず、安堵の溜息を漏らした。
「ああ…やっと、着いた…」
「大丈夫?疲れてない?」
彼女が少し眉を吊り上げ、若干心配そうに尋ねる。
「大丈夫ですよ。家にも着いたし、問題ないです」
僕はシャツをめくり、力こぶを作る動作をしてみせた。しかし生憎、見せられる程の力こぶを持ってはいなかった。恥ずかしそうに腕を引っ込めた僕を見て、彼女は笑った。
「―――そう。なら、いいの。………じゃあ、私はこれで」
「え………ち、ちょっと待って!」
僕は去ろうとした彼女を呼び止める言葉を、反射的に発していた。彼女は首を傾げながらこちらを振り向く。
頭の中で必死に言葉を整理し、一番聴きたかったことを、一つだけ尋ねた。
「………また、会える?」
「―――ええ、すぐに、ね」
彼女はそう言い、笑った。
それだけ言うと美姫さんは手を振って、来た道を戻っていく。僕は、彼女の姿が完全に闇に溶け込むまで、ちぎれんばかりに手を振っていた。
美姫さんが残した、意味深な言葉。
何故『すぐに会える』と断言出来たのか、その意味を明確に理解することが出来たのは、入学式の当日だった。
辺りには暗闇と影が生まれ始め、美しい森も海も、闇の世界の一部に移り変わろうとしていた。
闇が広がり始めると同時に、僕の家が視界に入った。どうやら話しているうちに辿り着いていたらしい。
僕は愛しい自宅を目の当たりにして思わず、安堵の溜息を漏らした。
「ああ…やっと、着いた…」
「大丈夫?疲れてない?」
彼女が少し眉を吊り上げ、若干心配そうに尋ねる。
「大丈夫ですよ。家にも着いたし、問題ないです」
僕はシャツをめくり、力こぶを作る動作をしてみせた。しかし生憎、見せられる程の力こぶを持ってはいなかった。恥ずかしそうに腕を引っ込めた僕を見て、彼女は笑った。
「―――そう。なら、いいの。………じゃあ、私はこれで」
「え………ち、ちょっと待って!」
僕は去ろうとした彼女を呼び止める言葉を、反射的に発していた。彼女は首を傾げながらこちらを振り向く。
頭の中で必死に言葉を整理し、一番聴きたかったことを、一つだけ尋ねた。
「………また、会える?」
「―――ええ、すぐに、ね」
彼女はそう言い、笑った。
それだけ言うと美姫さんは手を振って、来た道を戻っていく。僕は、彼女の姿が完全に闇に溶け込むまで、ちぎれんばかりに手を振っていた。
美姫さんが残した、意味深な言葉。
何故『すぐに会える』と断言出来たのか、その意味を明確に理解することが出来たのは、入学式の当日だった。