人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
その後、先生は再び椅子に腰かけて珈琲を啜りながら、僕と話しを続けていた。
世間話ばかりを話し出したため、長くなりそうだと感じた僕は、まだ何か話すことがあるのか、という意味の言葉を発した。








「―――そうだなあ、これといって説明することもないんだが………。クラスの場所とか、分かるか?」

「はい。先程、確認しました」

「あ、そうなんだ。じゃあ、これと言って話す事もないなぁ」








楽に終わって良かったー、と先生は背伸びした。




―――先生と初対面してから、三十分くらいがたっていた。

………第一印象からなんとなくそんな感じはしていたが、この数十分話して、僕の予感は確信へと変わった。




………おじさんだ。
見た目は黙っていれば綺麗そうに見えるが、中身は典型的な中年層の男性そのもの。ここに来て、何度『酒』という単語を耳にしたことだろう。

僕はそう考えながら、先生のことをじっと見つめていたらしい。―――無論、怪訝な目で、ではあるが。

それに気づいた先生は、にんまりとして僕にこう言った。








「…ん~?なんだなんだ、そんなに見つめて………。恋なんかしても、私は年下には興味ないぞ?」








僕も先生には女性としての興味はありません、と丁寧に言い放ち、その場を後にした。




気づけば時間は、普通生徒が登校する時間になっていた。辺りに騒がしい空気が流れ始める。








「もうこんな時間か……」








窓から射す光に目を細めながら、廊下を歩く。通りかかったトイレから、芳香剤の香りがした。

もう少しこの学校を探検したいところではあるが、それは今日の放課後にしなければならないだろう。のんびりすることが出来るような時間は既にない。








「―――教室に、行くとするか……… 」







自分の意思を確かめるように小さく呟き、階段を下る。

扉の前で立ち止まり、自分の学生服を見て、おかしな所が無いかを確認してから目の前の教室に続く扉を開いた。
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