人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
集がいた。








「し………集………君?」

「集でいい」








そう言われ、ゆっくりと頷く。

僕は出来る限り冷静に周囲を見渡すと、周りには、このクラスの男子全員(といってもクラスの人数が二十人より少ないため、八人程度だが)が立ち尽くしていた。
皆僕と同じかそれより大きな体をしていたため、僕の視界がひらけることはなかった。

状況を上手く把握出来ない僕に、隼がにやりとしながら話し掛けてきた。








「聴いたぜ?入学初日からデートなんてやるじゃねぇか、転校生」

「で、デート!?そそ、そんなんじゃ………!―――って言うか、美姫さんは!!?」








半ば声を裏返しながらそう言うと、集は悪い悪い、と笑いながら僕の右側を指差した。

―――どうやら、彼女も僕と同じ状況にあるらしかった。僕の右側には、こちらよりは幾分華やかな肉団子が出来上がっていた。

体育館に向かう途中の会話が聞かれていたのか、と僕は肩を落とす。…つめが甘かった。








「―――話を戻すぜ」








集が僕にウインクしてみせた。金色の髪が風に靡いている。








「お前等、学校内を見て回るんだろ?―――それなら俺達が、この学校の案内をしてやるよ。小中高エレベーター式だから、作りはもう頭に入ってるしよ。―――転校生二人じゃ、心もとないだろ?」








僕は、戸惑いながら集の顔を見た。とても楽しそうに、気持ちの良い笑顔をその顔に称えていた。―――断らせる気は、さらさらないらしい。僕は誰にも悟られぬよう、静かに溜息を吐いた。








「………ご好意、ありがたく受け取るよ………」

「―――よっしゃ!それじゃあ決まりだなっ!!」








集は腰掛けていた机から降り、足を床につける。ボタンを閉めていない学生服が靡き、まるでマントのように宙で踊る。
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