人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「―――美姫さん!」








僕は走りながら彼女の名を呼んだ。

それに気づいた彼女は、風に揺れる髪を手で押さえながら、僕の方を向き、微笑んだ。








「―――どうしたの?一人で海を見つめて………」

「………うん、お母様は元気かな、って思ってね」

「………美姫さんのお母さんって、やっぱり人魚なの?」








彼女は寂しそうに海を見ながら頷いた。








「じゃあ………海の中?」








再び彼女は頷く。








「………そっか………」








僕は彼女の言葉に、それ以上何か言い返すことが出来なかった。何一つとして、気の利いたことも言えなかった。僕が何を言おうが、それが美姫さんの心には届くことは無い気がして、怖かったのだ。僕は自らの情けなさに落ち込み、いつの間にか俯いていた。








「―――あなたが、暗くなることじゃないわ。流斗君は私の事を随分と理解していてくれているし、本当に感謝しているんだから」

「………本当に?」

「ええ………」








良かった、と小さく呟いた。

僕が少しでも彼女の支えになれているということに、喜びを覚えたのは確かだった。
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