人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
彼女は続ける。








「………私ね、家出したの」

「―――家出?」

「家出、というのとはまた違うかもしれないけどね。お母様とお父様とも話をちゃんとつけているし」

「………どういう、事なの?」








よく状況が掴めない。

両親が同意した上での家出って………?いくら考えても納得のいく答は生まれなかった。








「―――地上に、どうしても行きたかったの」

「地上、に?」








彼女はこくり、と頷いた。








「………人魚ってね、こうして人間みたいな格好出来はするんだけど、形だけなの。結局本質は半分魚。生活には必ず支障が出てくるわ」








それはそうだ、と思う。

いくら人魚とはいえ、あくまで半分が人、半分が魚の生物なのだ。例え寿命が長かろうが、余り生活することのない陸地に長時間滞在して、いい影響があるはずはない。








「―――だから、ね」








彼女は僕の方を向き直して、静かにこう言った。








「―――私は、涙を流したいの」

「な………涙?」








僕は予期せぬ答えに、上ずった声をあげてしまった。
しかし、彼女は真面目な顔を崩すことなく、話を続けた。








「人魚には、本来大きな感情の変化、というモノがないの。笑ったりとか、落ち込んだりとかなら、出来るのだけれどね。だけど、それよりも一歩先………つまり、嬉し泣きだとか、哀しくて涙を流すとか、そういった感情が欠落しているの」
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