人魚の涙 ～マーメイ・ドロップ～

彼女は下を向く。

長くて綺麗にカールのかかった睫毛が、悲しみを称えた瞳を隠すベールのように目を覆う。








「だから………涙を流すことが出来た人魚は、人になることが出来るの―――いいえ、涙を流せた時点で人になっている、という表現の方が正しいかしらね………。お母様から聴いた話では、今まで人魚から人になれた数はほんの一握り………まあ、『人になりたい』なんて人魚、少ないのだから当たり前なのだけどね」








美姫さんはそう言い、笑った。しかしその顔は、無理矢理に笑っているようにも見えた。そんな笑顔は、僕の心を余計に強く痛めた。








「普通、人魚は『人のような醜い生物に成り下がりたくない』と、そう思うの。………例えは悪いけど、人が『虫になりたくない』、と思うようにね。でも、たまに人になりたい、と切に願うモノ好きがいるらしいの。………それが、私たちのような人魚、通称『ザ・オポジット（“反する者“の意）』。絵本で有名な人魚も、『ザ・オポジット』だったのかも知れないわね」








彼女は苦笑して見せた。

少し可笑しそうに、少し悲しそうに。