人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
―――『ザ・オポジット』、か―――。

なんとなく差別的な呼び名だが、彼女はこんな名前で呼ばれるくらい当然であるし、何とも思わないと言う。








「別に迫害されたりする訳でもないのよ?ただ変わり者なんだ、って思われるだけ。それに、ほぼ確実にまた帰ってくる訳だから………。誰も気に留めてなんかいないわ」








でも、と彼女は続ける。








「私はどうしても人になりたい。何故かは分からないけど………どうしても。こうして色んな人と出合って、余計にそう思ったわ」








天をゆっくりと見渡すように、美姫さんは宙を仰いだ。白く細い手が空を切り、滑らかに流れてゆく。








「でも、本当はなれないんじゃないかって、ここに来た時は凄く不安だったの。お母様方から、人になるなんて無理だと言われていたから………」

「美姫さん………」

「―――でもね、私は………あなたに、流斗君に出会えた」








美姫さんは僕に詰め寄り、少し喜ばしげに僕を見上げた。








「流斗君は、私の事を気持ち悪がるどころか、人魚だってことを理解してくれて、それどころかもう友達だと言ってくれたでしょう?あの時、顔には出さなかったけれど、本当に嬉しかったの。だから―――」




彼女が僕の手をとる。甘い香りが僕の鼻をくすぐる。

僕は破裂しそうな心臓を落ち着けて、胸元にある彼女の顔を、なんとか見返した。胸の鼓動が聞こえてしまうのではないかと危惧したが、今の彼女の耳には何も入っていないようだった。
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