人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「み、美姫さんの………家………?」








―――それって、地上にあるものなのだろうか。
もし水中にあるのであれば、もう二度と家に帰れないかもしれない、などと考えてみた。それはちょっと困るかもしれない。




………いやいや!

僕は美姫さんと一緒にいる!!そう決めたばかりじゃないか。
美姫さんの為なら、例え火の中水の中―――。




しかし、勝手に腹を括っていた僕に投げかけられた言葉は、余りに驚きの内容を含むものだった。








「そうよ。あなたの家の隣の―――ほら、そこ」

「………はい?」








僕は彼女が指を指す方向へと、ゆっくり振り向いた。








「―――え?」








僕は思いもよらぬ出来事により言葉を失い、その場に立ち尽くした。それも仕方のないことだ、と思う。何故なら、朝家を出るまで空き地だったはずの所に、巨大な『何か』が存在しているのだから。

そこにあったのは、親が僕に与えてくれた陳腐(与えてもらっておいて失礼だけど、木造で小さく、本当に陳腐だ)な家とは大違いの、立派な煉瓦造りの小さめの―――とは言っても3階建てはあるだろう―――家だった。
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