人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
「疑ってる?」

「………少しだけ」








正直に、そう答えた。
傷付くかもしれないとか思ったけど、彼女に嘘をつくのだけは、どうしても避けたかったのだ。

それを聴いて美姫さんは少しだけ考え込むそぶりを見せ、それじゃあ、と言った。







「目を、つぶってくれる?あなたのことを好きだってこと、解らせてあげるから」








僕は頷き、少しずつ目を閉じた。辺りの空気が、緊張し始めている。
僕の前に、闇が広がってゆく。

そして、ゆっくりと目を閉じ切った―――その瞬間。








唇に伝わる、柔らかな感触。
目を開ければ眼前に広がる、彼女の顔。

彼女は僕からゆっくりと離れ、心なしか少し恥ずかしそうにこう言った。








「………これで、いいでしょう?」








何が起きたのかをいまいち理解出来ず、夢の中にいるような心地で、僕は頷いた。唇を確かめると、少しばかりしっとりと湿っており、先程の事は現実である、と唇が僕に告げているようだった。
< 54 / 69 >

この作品をシェア

pagetop