人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
僕の背中に激痛が走る。どうやら僕は凄まじい勢いで『何か』に激突されたらしかった。呻きながら後ろを向くと、その『何か』の張本人であるらしい女の子は、くの字に曲がった僕に対してひたすらに謝っていた。








「ご、ごめん!坂を駆け出したら、止まらなくて………。あっ、美姫ちゃん、こんにちはっ」

「―――やっぱり、めぐだったのね………。」








僕は背中を押さえながら苦しそうに立ち上がる。
美姫さんに、『やっぱり』とはどういうことかと尋ねると、美姫さんも以前激突され、その日の間は腰を痛めて、学校へ行くことが出来なかったことがあったのだと教えてくれた。確かに、二週間程前に美姫さんが学校を休んだ日があったのを、僕は思い出した。

僕は、通り魔行為を繰り返しているらしい女の子をちらりと見てみると、僕の存在を忘れているのではないかと思うくらいに、楽しそうな甲高い笑い声を女生徒は上げていた。

僕は彼女の顔を知っている。同じクラスにいる女の子だった。名前は確か………『宮崎 めぐる』(ミヤザキ メグル)。見ての通り、ドジっ子である。
彼女はひとしきり笑うと僕の存在を思い出したようで、慌てふためいて申し訳なさそうな顔をした。








「―――あっ、ご、ごめんなさい!私ったら、楽しそうに話してしまって………。お邪魔だったよね」









気にかけているところは、そこなのか………と胸の内で突っ込みながら、顔に笑みをたたえた。








「い、いや、大丈夫………だよ」

「ホントに、ですか?良かったぁ………」








彼女は胸を撫で下ろした。
同時に僕も痛む肋骨を慰めるかのように、胸を優しく撫でた。
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