人魚の涙 ～マーメイ・ドロップ～
「流斗君！」








木々がざわめく中、彼女の声が僕の耳へと浸透してゆく。振り向くと、黒髪に身を包んだ美少女が大きく手をふりながらこちらへと走ってきていた。

美姫さんは僕の近くまで来ると速度を緩め、息を整えながら僕の方を見た。
彼女もいつもとは違い、学校用のジャージを身に纏い、体育の授業で使う、白い運動靴を履いていた。








「よかった、気がついてもらえて………。まだ追いかけないといけなかったなら、どうしようかと思ったわ」

「………え？美姫さん、ずっと名前呼んでました？」








ええ、そうよ、と彼女は悪戯っぽく言ったが、僕が申し訳なさそうに謝罪すると急に吹き出し、実はそんなに前から呼んでいないということを明らかにした。








「………もう、びっくりさせないでくださいよっ！少し、罪悪感が生まれたじゃないですか」

「ごめんなさいね………少し、面白そうだと思ったから」








彼女はくすりと笑った。

僕はなんとなくみっともないような気持ちになり、地面を見た。アスファルト続きの道は終わり、草が生い茂っている。
アスファルトの道でなくなったということは、もうじき学校へ着く、ということを意味していた。








「………あれ、もう学校だ………。早かったような気がするな」

「―――きっと、楽しかったから短く感じたのよ」








僕も同じことを考えていたので、そうですね、と賛同する。

美姫さんといると時間を忘れるようだ、とふと思い、口にしてみた。彼女は頷き、私もよ、と返してくれた。
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