人魚の涙 ～マーメイ・ドロップ～
「おう、遅かったじゃねえか！」








彼は僕が扉を開けるやいなや、近所に迷惑になるのではないかと不安になるほどの大声で、こう叫んだ。
教室の扉の向こうで仁王立ちしていた隼に対して身じろぎしながら、なんとか返事をするのだった。








「そ、そうでもないと思うけれど………ていうか隼、一体何してるの………？」

「馬鹿だな………そりゃあ、お前達のお出迎えに決まってるだろう？」








もう少し、静かに済むお出迎えはなかったのだろうか、と僕は考えた。
隼が僕の肩を叩く力は強く、ばしんばしんと音が部屋に響くと共に体も揺れる。
僕が助けを求めるように美姫さんを見ると、僕の様子を微笑みながら見つめていた。どうやら、助けだすつもりはないらしかった。




隼が豪快に笑っていると、それに掻き消されるまいとベルが鳴った。
予鈴を耳にした生徒は友人と話すのを止め、各々の席につく。先程までの喧騒が嘘だったかのように、教室は静まりかえった。

僕も椅子に座り、愛読している神話を記した本の表紙をめくる。
ぱらり、という音が聞こえるか聞こえないかくらいのタイミングで、先生が教室へと入ろうとしていることを示す、扉の軋む音が響いたのだった。

今日は本が読めなかったな、などと考えながら机に本を丁重にしまった。
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表紙・目次

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