人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~

自殺志願者?

跳躍した彼女のしなやかな体は、ゆっくりと宙で弧を描く。
流れるような漆黒の髪は、彼女の動きと共にさらさらと空を泳ぐ。
白い肌は日の光を弾き、まるで月光の様に美しく輝いた。




舞を踊っているような一連の行動が終了すると彼女は―――海に落ちた。
彼女が海に落ちた所から、湖に石を投じたように、波紋が広がってゆく。
水しぶきは虹を生み、一瞬の美しさを魅せつけると、また消えていく。








「………お、落ちちゃった………」








どうしよう。
僕は戸惑った。何故なら、人が自殺するのを目の前で見たのは初めてだからだ。
………どうしたらいいのか、その答えは決まってはいる。
僕はその決意を行動に移す決心がつくと、勢いよく立ち上がり、先程彼女が立っていた場所へ近づく。








「助けなきゃ…!」








上着を脱ぎ、息を肺に出来る限り溜め込む。
泳ぎはあまり得意ではないが、全く泳げない訳ではない。
見渡すと、岸は案外落下した場所のすぐ近くにあった。恐らく、彼女を助けだすぐらいなら、出来るはずだ。








「―――それっ!!」








僕は鼻を摘み、地を蹴った。多少情けない格好になりながらも、海にぐんぐんと近づいてゆく。

途中途中、走馬灯のように昔のことを思い出したりしたけども、ゴボゴボと耳に水が入ってきたことで、なんとか水の中に安全に入ることが出来たのを確認した。
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