人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~
(あら………何か用?君)








………え?
今、確かに声が―――。

困惑する僕に気がつき、彼女は僕にこう言った。








(あ、ごめんなさい………。びっくりした、よね?いきなり海に飛び込んだと思ったら、水中で悠々と話しているのだものね―――。君は、私が自殺しようとしていたと思っているのかもしれないけれど、それは違うわ)








何を言っているんだ、この娘は?話がさっぱり理解できない。
人間が水中で話が出来るなんて、聴いたことがない。確かにもがもがと息を排出しながらならば、少しは音になるかもしれないけど、彼女はもう海に飛び込んで一分くらいになる。普通の人間なら、そんな余裕ないだろうし、何よりその声は澄み切っていて、まるで直接耳に入って来るかのようにこだまする。

僕はひたすら困惑していた。何が何だか解らなくなり、一度海面にあがろうとした………その時だった。
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