月と太陽の恋愛関係
「はいよ」と、淹れたてのコーヒーを俺に差し出す。


それをお礼を言って受け取る。


鼻腔をくすぐるちょっぴり大人なコーヒーの、苦くも甘い香りに自然と心が溶けて行く気がした。


それと同時にじわじわ、と後悔が押し寄せる。



もっと、

もっと素直に行きたいと言えば、もしかしたら二宮だって行ってくれたかもしれないのに…。


知らず知らずの内に瞳から溢れ出す涙の雫。


「……ねぇ、マスター…。

花火行きたいんだけど…どうしよう…。」

涙をこらえてマスターの助言を待つ。


「ほら…。」


そう言ってマスターがニコニコ、と差し出したのは

「浴衣?」



白い布に、薄いピンクで描かれた蝶がいくつも舞っている、とても綺麗でシンプルなデザインの浴衣。


「こ、こここれ、着てもいいんですか?」

浴衣を見ながらマスターに問い掛ける。


「いーの、いーのどうせ孫に着せるつもりだったんだから。」

にこやかに微笑むマスター。


っ…、えぇ!?

「ま、まままま、お孫さんですか!?」

「そうそう、可愛いんだよー。」


どこか遠くを見ながら目をキラキラ輝かせるマスター。


待てよ…


お孫さんが俺にピッタリなこの浴衣の持ち主なら…同い年ぐらいだよね?

「お孫さんって俺と同い年ぐらいですか?」

「全然、だって五歳だよー?」


首を振りながらやっぱり微笑むマスター。

っつか、五歳の子にこの浴衣を買うとか…親バカならぬ爺バカか!?


「…クスクス」

可笑しくてついつい漏れてしまう笑い声。


「わ、笑うことないだろう。
お爺ちゃん愛だよ。」


訳が分からなくてやっぱり笑ってしまう。


「ほら、笑ってる場合じゃないだろう?
もうそろそろ君の待っている人が来る筈だ。

さぁ、早く…。」


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