隣のヤクザさん




妙な空気のまま電話を切って、再びポケットに仕舞う。


…まだ、ざわざわと胸が騒いでいた。きっと、この新しい環境の所為だろう。


…この町には、誰も俺を知るものが居ない。あらためて一人になってみると、自分がどれだけ「普通」の、ただの十七の男なのかを思い知った。





それは、俺がずっと求めていたもので。


抱いていた不安や違和感に、感じたことの無い清々しさが、嵩を増して被さった。



本当に何もない、実家とは比べ物にならないほどに狭い部屋の中を歩き、窓を開けてベランダに出る。


空を見上げると、闇の中に幾千の星が瞬き、三日月に薄い雲がかかっていた。


……こんな夜空を見たのは、生まれて初めてで。

俺はその美しさに見惚れ、しばらくそこに立ち尽くしていた。



夜空を眺めていると、さっき挨拶をした隣の――小日向さんの、真っ赤な顔が浮かんでくる。


ふわふわの栗毛、小さい背。

慌てたような、早口。


……不思議な人だ。


心の中でそう呟くと何故か胸の奥が暖かくなり、そんな自分に首を傾げる。




それでも、少しだけ。




明日もまた会えるだろうか、なんて、思ってしまった。




.
< 12 / 12 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

コガネ《短》

総文字数/8,500

恋愛(その他)27ページ

表紙を見る
スタッカート

総文字数/146,981

恋愛(学園)404ページ

表紙を見る
雨

総文字数/20,270

恋愛(その他)51ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop