隣のヤクザさん
妙な空気のまま電話を切って、再びポケットに仕舞う。
…まだ、ざわざわと胸が騒いでいた。きっと、この新しい環境の所為だろう。
…この町には、誰も俺を知るものが居ない。あらためて一人になってみると、自分がどれだけ「普通」の、ただの十七の男なのかを思い知った。
それは、俺がずっと求めていたもので。
抱いていた不安や違和感に、感じたことの無い清々しさが、嵩を増して被さった。
本当に何もない、実家とは比べ物にならないほどに狭い部屋の中を歩き、窓を開けてベランダに出る。
空を見上げると、闇の中に幾千の星が瞬き、三日月に薄い雲がかかっていた。
……こんな夜空を見たのは、生まれて初めてで。
俺はその美しさに見惚れ、しばらくそこに立ち尽くしていた。
夜空を眺めていると、さっき挨拶をした隣の――小日向さんの、真っ赤な顔が浮かんでくる。
ふわふわの栗毛、小さい背。
慌てたような、早口。
……不思議な人だ。
心の中でそう呟くと何故か胸の奥が暖かくなり、そんな自分に首を傾げる。
それでも、少しだけ。
明日もまた会えるだろうか、なんて、思ってしまった。
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