隣のヤクザさん
「そろそろ着きますよ」
その声で、伏せていた目を上げる。
真っ直ぐ前を向いた和泉さんは、片手でハンドルを操りながら道路をすいすいと走り抜けていく。
俺は、決心するようにまたひとつ息を吐いた。
「……何でしょうかねえ、アレ」
その声に、首をかしげる和泉さんの視線の先を追う。
見ると、セーラー服を着た女子高生が、道路のど真ん中で両手を広げ空を仰いでいる。
……新しい宗教か?
一瞬頭を過ぎった思考に、何故かすんなりとうなずけてしまう自分が居て。
しかしそのあとに聞こえた和泉さんの発言には、背筋が凍りついた。
「あんな場所で堂々と…轢かれたいんでしょうかね、なんなら轢いちゃってもいいんですけど」
あははは、と軽く笑いながらそんなことを言う和泉さんを慌てて止めると、いやだな坊ちゃん、冗談ですよとニヤリと笑われたが、心臓は未だやたら五月蝿かった。
この人が言うと、本気か冗談かわからないのだ。