隣のヤクザさん
「さあさ、着きましたよ」
そう言って車を止めた和泉さんは、こちらに振り返って短く息を吐いた。
「…しつこいようですが、坊ちゃん、」
「うん。何かあったら連絡するよ」
言葉を遮ってそう言った俺に、困ったように眉を下げて、和泉さんは笑う。
その表情に、胸の奥が暖かくなった。
…案じてくれているのだ。
少しでも安心してほしくて、俺はただ、笑って返した。
ひとつ息を吐き、ドアを開ける。
生ぬるい風が肌にまとわりつく。
「坊ちゃん、」
背中にそう声が当たり、振り返ると和泉さんが穏やかに笑っていた。
「何処の世界でもそうですが、挨拶は基本、ですよ」
その言葉に、頷く。
サングラスをかけなおし、未だ知らぬ外の世界へ
俺は一歩、足を踏み入れた。
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