心を知っていたなら
「あの…」

「うちの名前は春日井笑
利菜((えりな))。仕事は
看護師、あんたのお母さ
んとは高校の同級生やっ
たんよ。」


あたしの言葉に被せるよ
うに、笑利菜さんは自己
紹介してくれた。


「同級生でもあり、無二
の親友だった。」


缶コ-ヒ-の栓を抜きな
がら、遠い目をしてそれ
だけ言うと、一気にコ-
ヒ-を飲み干す。


「だから、あんたが生ま
れた時も知ってるし、あ
んたとお母さんが離れた
時も一番近くで見とった
んよ。あんたはうちの娘
も同然やった…」


あたしはもう言葉なんて
発する事もできなくて、
ただ黙って笑利菜さんの
話を聞いていた。


「あんたとお母さんが離
れてからは、なかなかう
ちもあんたの所へ行く事
もできやんで、心配はし
とったけど…自分の結婚
とか仕事とか…何かもう
色々忙しすぎてな。今日
まであんたには会えなか
った。」


笑利菜さんの言っている
事が本当なら、今、あた
しの目の前にいる女性は
限りなく母親の近い所に
いる人に間違いはない。


でもなぜか…あたしは心
がほんの少しも揺さ振ら
れない。


「笑利菜さんは…お母さ
んに会ったり…連絡取っ
たりとかはされてないん
ですか?」


あたしの質問に、笑利菜
さんの表情が曇る。何か
あるのは手に取るように
分かった。


「答えてください。」


詰め寄るあたしの肩に、
笑利菜さんは優しく手を
置いた。


「連絡…とれるものなら
今すぐにでも取りたい位
やわ…こんな可愛い娘…
迎えに来るって言うたの
に…嘘つくなって、久し
ぶりに喧嘩したいわ」


寂しそうな表情に胸が締
めつけられる。
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