心を知っていたなら
涙が突然溢れ出した。怒
りでもない、悲しさでも
ない、はたまた恨みでも
ない。


あたしは公衆の面前で、
ひたすらに喜びの涙を流
していた。


会いたいと思ってないの
は変わらない。このまま
一生会いたくない。あた
しを捨てていった理由な
んか、どうでもいい。親
無しで育った事には変わ
りない。


でも何でなのか?あたし
の心は温かい物に満ちて
いて、写真から目をそら
す事が出来なくなってい
た。


その雑誌を買って晃と家
路に着いた時も、あたし
の顔は笑っていた。


「何かいい事あったん?
あの短時間で。」


不思議に思った晃にそう
聞かれても、ほとぼり冷
めるまで言いたくない。


嘉穂なんて名前、他にも
たくさんいるだろうし、
たまたま条件が合っただ
けかも知れないと言われ
ても、あたしには確固た
る自信があった。


塩山清良はあたしの母親
である事。


「ん?別に-!!」


心の底からの笑顔で、あ
たしは応えた。この笑っ
た顔、清良ママに似てい
るかな、なんて事を考え
ながら。
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