心を知っていたなら
幾分かは眠ったのか…目
を覚ますと晃はもう居な
くて、時計の針は午後八
時半を指していた。


泣きすぎたあたしの目は
ぽんぽんに腫れていて、
とても出勤できるような
顔じゃなかった。昼間の
出来事が全て嘘なら、ど
んなに幸せだろうか。


そんな気持ちを打ち砕く
ようにして、ベッドの下
に例の雑誌が転がってい
るのを確認した。


壁に掛けられていたス-
ツがない事から晃は仕事
に行ってしまっていて、
明日の昼前まで確実に帰
ってこない。


枕元に置いてあった携帯
に手を伸ばし、店の女の
子たちに電話をかけた。


みんなあたしよりも歳上
だけど、水商売は浅い。
あたしもまだまだだから
色々助け合いながら頑張
ってくれている。


おかげでこのご時世でも
あたしが経営するスナッ
ク『DISTANCE』は愛宕町
の中では流行っている方
である。


『もしも-し!!ママ??お
はよう♪』


明るい声で電話に出たの
は、あたしより二歳上の
香奈ちゃん。


今時珍しい、黒髪ストレ
-トの和風美人。週六日
フル出勤してくれている
言わば店の『要』。


「おはよ!!ゴメン香奈ち
ゃん、あたし何か熱っぽ
くてさ、今日店休みにす
るわ。いいかな??」

『え!?まじ??ママ大丈夫
なん??香奈、何か持って
お見舞い行くよ。』

「いやいや、ええよ。そ
んな気つかわんで…」

『行くで!!待ってて!!』


そういうと香奈ちゃんは
一方的に電話を切ってい
った。
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