心を知っていたなら
気遣ってくれるのは嬉し
いけど、熱が出たってい
うのは真っ赤な嘘。目が
腫れて、とてもお客さん
に会えるような顔じゃな
いって言ったら、余計に
心配するかと思ってつい
た嘘が何かめんどくさい
方に流れてしまった。


「一人にしといてほしい
んやけどなあ…」


あたしの呟きは天井に吸
い込まれて、消える。こ
んな時に心から許せる友
達がいれば、少しは楽な
のかも知れないけど。あ
たしにはまた、友達もい
ない。


というよりは、作らなか
った。


誰に似たのか、人と深く
付き合う事が嫌いな子供
だったあたしは、とにか
く一人を好んだ。親が居
ない事で周りにしつこく
何かを聞かれるのも億劫
それに回答するのも阿呆
みたいで。


虐められることもなく、
誰の目にも付かないよう
な子供時代を送って、そ
のあとグレた時に入った
レディ-スで初めて…本
当に初めて友達って呼べ
る存在ができた。


『何かあったら言ってき
いや。うちら、嘉穂のた
めやったら体張ったるよ
!!ツレやん、うちら。』


あの日のみんなの声が今
でも耳から離れない。


だって、あんな事言われ
た事無かった。あたしの
ためとか、友達なんだか
ら当たり前とか。


世の中何か無きゃどうに
もならないって思ってた
自分の世界が急に、拓け
た。
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