心を知っていたなら
できれば総長とのタイマ
ンだけは、自分じゃない
誰かにしてほしいと思っ
てた。


「嘉穂、大丈夫??神妙な
顔してさ」


いずみがあたしの顔を覗
きこんでいるので我に返
った。


当時のあたし達のたまり
場は、美也子の家で。母
子家庭で母親が男としけ
こんでばかりだった美也
子の家に、誰かいるのを
見た事が無かった。


「いや、大丈夫。」


一言答えると、いずみは
そそくさと家に入ってい
った。


荒れた台所、あちこちの
壁に美也子の暴れた傷痕
があって。食べるものは
いつも買ってきたもので。


美也子もまた、親の愛を
知らずに育った子だった。


「美也子また暴れたんけ
??こんな穴昨日無かった
べ」


美也子の部屋のドアに、
まだ新しい傷痕があった
。なんだかんだで、あの
子はあんなどうしようも
ない親でも殴る事は出来
なかったみたいだ。


「…ああ…ババアの男が
昨日来てさ。ああだこう
だってあたしに因縁こく
からさ。やっちまった!!」


缶ビールのプルタブを押
し上げて笑う美也子を、
尊敬していた。きっと、
母親を大切に思えてる。
愛されたいと願えてる美
也子は、凄いとすら思え
た。


あたしはそんな事思えな
かった。それは今も変わ
っていない。最初から無
いものをねだるほど暇じ
ゃないなんて、擦れたガ
キだった。
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