心を知っていたなら
「お前も大変なあ。」

「ま、ええやん!!今日は
飲むべ。」


何も傷ついていないかの
ように美也子は笑ってい
た。あたし達も子供だっ
たから分かった振りをし
ていた。美也子は平気な
んだって。


したたか飲んで、あたし
と美也子以外が潰れて眠
りについた頃、夜中の二
時をまわっていた。美也
子の部屋の冷蔵庫には、
缶ビールだ缶酎ハイだと
溢れるほどの酒が詰め込
まれていて、一本開けて
は一本出して飲む。それ
を繰り返した。


4人でいつもつるんでた
けど、美也子とあたしの
二人は格別に仲が良くて
。お互いのあい通じる物
が多かった事もあったろ
うけど、美也子の横は居
心地が良くて彼女にだけ
は何でも話せたんだ。


「…やぱ、ばあちゃんと
仲悪いの??嘉穂んちさ。」

「ん…まあ。あたしは嫌
いやないけど、じいちゃ
んもばあちゃんもあたし
の事はどうでもいいっぽ
いな。」


美也子の突然の問いかけ
に答える。この質問は、
飲むと必ずするもので大
した理由はいつも無かっ
た。


「おばちゃん帰ってきてんのけ??最近…」


テレビに映し出される深
夜番組を見つめながら、
質問を返す。


「嘉穂ならさあ、散々自
分の事ほっといた母親が
ある日突然知らねえ男連
れてきて、明日からこの
人がてめえの親父だなん
て言われたら、どうする
よ??」


視線を美也子に戻すと、
美也子は唇をきつく噛ん
だままブラウン管を見つ
めていた。


「美也子それって…」

「昨日ばばあ帰ってきや
がって、男あたしの部屋
に連れてきたかと思った
ら…明日籍入れるからと
か、ぬかしよった。」


顔色一つ変えない美也子
の周りを言い様の無い空
気が渦巻いている。ふと
、ドアにぽっかり空いた
美也子の『怒り』が目に
入る。
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