心を知っていたなら
「何かデカイ会社の重役
かなんからしくてさ。あ
たしみたいな不良が娘に
いるって分かったら、め
んどくさいってよ。あた
しら別に住むから、用が
あったら電話してこいだ
とさ。男は男で馬鹿にし
たみたいな目して、あた
しに『一緒に住みたかっ
たら暴走族やめてこい』
っていいやがる。」


口に含んだビールを飲み
込めないまま、あたしは
黙って話を聞いていた。
そして気付いた。美也子
の『悲しい』とか『苦し
い』とか『寂しい』って
感覚は、何年も昔に麻痺
してしまっている事に。


何も感じられない、人間
に美也子はなってた。


「分からん…ゴメン…」


消え入るようなあたしの
返事を聞いて、美也子は
ようやく微笑みをこぼし
た。


「こっちこそゴメン…よ
りによって嘉穂にこんな
話するとか、ありえんな
。あたしより状況悪いの
に」

「いや、いいよ。」


そんな会話を交わして、
あたしたちはまた飲んだ
。美也子が潰れて眠るま
で、あたしは起きていた
。夜明け烏が鳴く頃に美
也子が眠って、あたしは
それを見届けて部屋を出
た。


静かに部屋のドアをしめ
て、玄関に向かって歩き
だすと、玄関から物音が
した。


直感で気付く。


美也子の、母親とその男。


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