心を知っていたなら
美也子の気持ちは、これ
っぽっちも分からない。
中途半端に親がいる、そ
の感覚も分からない。自
分を愛してくれない親を
、未だに大切に思ってい
る感覚も分からない。


ただ、あたしに分かって
いる事が一つだけあった。


『美也子ハアタシノ親友ダ』


近くにあった傘立てを思
い切り蹴っ飛ばす。美也
子が言えないなら、美也
子が出来ないなら、あた
しがやってやる。


「ドタマ勝ち割ったろか
!!死にくされや!!」

「嘉穂やめて!!」


男の胸ぐらに掴みかかっ
たと同時に、声が聞こえ
た。振り返ると立ってい
たのは…美也子。


「ええよ、嘉穂。」


口元に薄く笑いを浮かべ
て、金色の前髪の向こう
に涙を浮かべた目があた
しを捉えていた。


「良かねえやろ!!てめえ
あんなに怒ってたんやな
かったんけ!?」


美也子を怒鳴りつける。
…美也子は『もう、いい
』と言った。


「気持ちだけで嬉しい、
嘉穂。今日、あんたと一
緒におれて良かったわ…
はよ帰り、あと何時間後
かには喧嘩やで??負けら
れへんやん。」


余りに穏やかな口調が勘
に触って、あたしはもう
一度傘立てをケリ飛ばし
て玄関を出た。
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