心を知っていたなら
「美也子!?美也子!!」


美也子の家の玄関を勢い
よく開けて、部屋に続く
階段を駆け上がった。


…何の異変にも気付かな
いで。


「あれ??嘉穂…どうした
んよ…」


部屋にはあたし以外の仲
良しメンバ-が、朝と変
わらず揃っていた。


「美也子、ちょい話せる
かな??芳江、いずみゴメ
ンちょっと美也子借りる」


全部の神経が逆立ったみ
たいに興奮していたあた
しは、そこでも異変に気付かずにいた。


怪訝そうな面持ちで、芳
江といずみが頷く。


美也子の手を引いて、部
屋を出た。


表情一つ変えずに美也子
は着いてくる。昨日まで
の穏やかな空気なんて、
ただの一回も無かったか
のように。


家の前にある自動販売機
の前に腰を下ろす。

「さっきはゴメン…いら
ん事してしもて…」

「うん」

「美也子の事じゃ、あた
し熱くなってまうんさ。
大人気ないやろ」

「うん」

「なんか暴れ散らして飛
び出してってしもたから
謝ろうと思って。」


あたしの目を見たまま、
美也子は人形のように表
情を変えない。


「怒ってるやろ??」


あたしの言葉に、言葉が
返ってこない。夏の蒸し
暑い風だけがあたし達の
間を吹き抜けていく。


「あたしさ、これから先
も美也子の事助けてくよ
全力で守ってくから…。
あんたの為ならあたし、
何にだってなるから。そ
れを伝えようと思って、
戻ってきた」


煙草を地面に押しつけて
立ち上がる。


「明日のカチコミ、頑張
ろうや。じゃね」


沈黙に耐えられなくて、
美也子に背を向ける。伝
えたかった事だけは伝え
られたから、良かったと
安心している自分が居て
美也子が何も言わないの
は、ただ怒っているだけ
だと思っていた。
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