心を知っていたなら
「嘉穂」


二三歩、歩いた所で後ろ
から美也子の呼ぶ声が聞
こえた。


「ん??」

「もう、あたしと関わら
ない方がええよ。」


時間が止まったのを、肌
が感じた。


「芳江やいずみとも、も
う関わらんといてや。嘉
穂ダルい」


手がわなわな震え出すの
を止められない。


「明日のカチコミも一人
で頑張ってよ。あたしら
バッくれっから」


言い返す言葉が出てこな
い。声の出し方が分から
ない。


「ゴメンね嘉穂…でも…
今までほんまありがとう
な。」


呆然と立ち尽くすあたし
に背中を向けて、美也子
は家の中へと入って行っ
てしまった。


ただ、立ち尽くしていた


腹立ちも覚えない。何に
も無い。涙だって、出や
しなかった。


そのあと、どれだけの時
間をかけて帰ってきたの
かも覚えていない。


「ただいま…」


台所から、ばあちゃんが
誰かと話している声がす
る。また、矛先があたし
に向かう事を覚悟して台
所のドアを開けた。


「ああ、言ってたら帰っ
てきたわ。…うん、よく
言っとくで…ごめんね。
じゃあまた」


ちらっと目を合わせて横
を通りすぎようとすると
案の定、電話を切ったば
あちゃんがあたしを呼び
止めた。
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