心を知っていたなら
二人の寝ている部屋の前
を足音を立てずに通り過
ぎ、一番奥のあたしの部
屋に入る。


この部屋は、母親の名残
が唯一ある場所だ。


あたしが赤ん坊の頃、母
親と二人がこの部屋で一
緒に寝ていたらしい。


テレビも、たんすも、母
親が使っていたそのまま
にしてあるみたい。


テレビをつけると、深夜
には珍しく水商売の特集
が放送されていた。


大阪、ミナミでスナック
を経営するママの話。四
十一歳とは思えない美貌
とスタイルの良さに、ブ
ラウン管を通してでもた
め息がでる。


名前を塩山清良((きよら
))という人。


「清良ってどっかで聞い
た事のある名前やな…」


煙草をくゆらせながら、
酒に酔った頭で考えるが
到底分からない。


「ま、ええわ。寝よ」


テレビをつけたまま布団
に横になると、あたしは
三秒あるかないかで眠り
に落ちた。
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