いなくなる
隆志は話を終えると、雅樹の後ろの自分の席に戻って行った。


「なぁ、隆志?」


後ろを振り向きもう一度、隆志に確認しようとした雅樹の視線に見えるべきものが映らなかった。


「・・・隆志、稔は・・・?」


隆志の隣にいるはずの稔の姿が無い事に始めて気が付く雅樹であった。


「え?・・・稔?」


「そう!稔だよ!」


「あぁ、稔なら、はしかを発病したから早退したってよ」



「えっ!何だって!」



隆志の言葉に驚愕し動揺する雅樹。


「稔が、はしかで早退した!」


「そうだよ、3時間目の授業中に発病したらしい」


二人の会話に聞き耳を立てていた幹男が雅樹に言う。


「稔は、3時間目からずっと寝ていたからね、多分調子が悪かったんだと思うよ?」


「そんなはずは無い!」


雅樹にいきなり否定され気後れする幹男だったが、自分には確証がある、自分は稔が寝ているところを間違いなく見ているのだから。


幹男は、気持ちを取り戻し雅樹に向かって言い返した。


「嘘じゃないって!ちゃんと稔が寝ていたのを、俺は見ているんだから!」



雅樹にたいして、強い口調で言い返す事に少し喜びを感じる幹男。


普段の自分と雅樹の関係であれば、言い返すことなどありえない事なのである。


雅樹はつねに自分より先に的確な答えを見つけ理論武装するので、言い返す事さえできない。


しかし、今日の雅樹はどこか変だ?いつもの冷静さを欠いている。


それに、自分は間違いなく稔が寝ているとこを確認している。




自信満々に雅樹に言い返した事に、幹男は雅樹に対して少し優越感を感じた。
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