いなくなる
雅樹は声にならない悲鳴を心の中で叫ぶと、隆志の腕を取り肩で抱え上げ教室の出口へと慌てて向かった。


しかし、雅樹の足は力が入らず、隆志と共にその場で倒れ込んでしまった。

「な!なんだこれは?」


まるで体中がしびれて麻痺するような感覚の中、雅樹は必死で立ち上がろうとする。


しかし、どれだけもがいても手足の自由は失われていく、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように。


「くそー動け!動け!」


雅樹は、何度も何度も声をあげ手足を動かそうとするが無駄であった。


自分の体が自分のものでは無くなるような感覚は、どんどん強くなっていく。


雅樹の前方に倒れている隆志を見ると、何やら隆志の足元から霧のようなものが教室の床下から噴出してきた!


「あ、あれは・・・なんだ・・・?」


唖然として見つめる雅樹の目の前で、霧のようなものが隆志の足元から現れて、徐々に隆志の全身を覆うように広がっていった。


やがて、隆志の全身を覆った霧のようなものは、隆志の姿を透き通らせてゆく。


隆志の全身の皮膚が透き通り始め筋肉と脂肪が現れだす。


そして、隆志の筋肉と脂肪も透き通っていき、内臓や無数の血管までもが見え始めた。


その隆志の姿を見つめながら雅樹は泣いた。


「隆志、ごめんな。助けてやれずに、本当にごめんな。」


霧のようなものに包まれている隆志の姿は、とうとう骨格だけになってしまい、その骨格も徐々に透き通り始めて、ゆっくりと雅樹の目の前から消えて行った・・・




・・・隆志も、いなくなってしまった・・・
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