いなくなる
あきれたように美奈の笑顔を見つめながら利沙は、話題を変えた。


「離し戻すけど、美奈が覗いていたD組のクラスに誰かいたの?」


「えっ?あぁぁ、教室には誰もいなかったよ」


「そうなんだ?・・・誰もいなかったの・・・でもそこには・・・」


「幽霊がいたとかー!」


利沙は、両手を幽霊のポーズにして美奈に迫る。


美奈は、本気で驚いた!


「やめてよ!美奈がそういうの、ダメなの知っているでしょ!」


泣きそうな顔をして利沙に訴える美奈。


「ごめん、ごめん、それで結局、君はいったい何を見ていたのかな?」


「・・・ねぇ利沙、英語辞書持っている?」


「えっ?・・・持っているけど何で・・・?」


「ちょっと見せてくれる」                


「・・・いいけど?」



美奈がいきなり話題を変更した事に少し戸惑いつつ、利沙は鞄の中から英語辞書を
取出し手渡した。


美奈は、英語辞書のページを無言でパラパラとめくっていった。


そして、鞄から取り出したノートと英語辞書を見比べていく。      


利沙が覗き込むと、美奈のノートには何やら単語らしきものが書いてあった。


「美奈、もう少し解りやすく見やすい文字を書けないのかな?」

ノートには、ミミズが地を張ったような英文が書かれていた。

どうやら美奈は、自分の書いた英文を辞書で書き直しているらしい?


しかし美奈は利沙の言葉に反応せず、しばらく英語辞書に見入っていた。


普段の美奈からは想像できないくらいの集中力である。


間が持たない利沙は、催促するように美奈に問いかける。


「おーい!美奈さん。私の存在を忘れていないかい?」 


美奈に訴えかけるように利沙が言ったと同時に美奈が利沙の方を向く。


ノートの英文を書き直した美奈が、ノートを利沙に手渡す。


「えっ・・・なに・・?」


利沙はノートに書かれている、清書した美奈の字に目を移した。
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