風にのせて君へ
「奏センパー……」
「誰……?」
ピタリ、とピアノが止まり、聞こえた声は奏先輩の声じゃない。
この声は……
「乙冬ちゃん……?」
「雪先輩?」
一瞬の沈黙があってから、私はダムが壊れたように言った。
「えぇー! 雪先輩もピアノ弾けたんですか!!
弾いてくださいよー!
もっとちゃんと聴きたいですよー!
すごい、すごいー!!」
雪先輩はそんな私をみて可笑しかったのか、ぷっと吹き出して笑った。
「ほんと、乙冬ちゃんって可愛いね」
「え?」
「なんか、素直で純で」
「そんなことないですよー!」
私は全力で否定した。
そんなことめったに言われないし、友達からは“ドジ”っていっつも冷やかされるから、
まさか、そんな褒め言葉があるなんて……
恥ずかしいけど、少し嬉しいのが本当だ。