風にのせて君へ
演奏の邪魔をしないようにするためか、その人は音を立てずに音楽室へ入ってきた。
そうして私の隣に立つ人に小さな声で訊ねる。
「なんで奏先輩がいるんですか?」
「うるせーよ」
むう、と頬を膨らませてみたが可愛くない、と言われてさらに私は頬を膨らませた。
雪先輩は演奏に集中していて、入ってきた奏先輩にまるで気づいていない。
「すげぇ……」
隣で奏先輩は呟く。
すっかり雪先輩の曲に夢中なようだ。
曲がクライマックスに入っても雪先輩は間違えることもなく完璧に引き終えた。
私は思わず拍手した。
「雪先輩、すごいです!」
「まだまだだよー」
そう言って、雪先輩は奏先輩に眼を移すと「いつからいたの?」と訊ねた。
「いつでもいいじゃん」
「素直じゃないね」
「知るか。それより、この曲……」
奏先輩と雪先輩は今の曲のことで話し始めた。
私、全然会話に入れない。
とことこと音楽室の後ろに置いてあるキーボードに近寄り、弾いてやろうかと言う気持ちで鍵盤を叩こうとしたとき、音が聞こえた。