風にのせて君へ


お母さんは眉を吊り上げて言った。



「は?」


「どこにある?」



お母さんは困った子ね、という顔をして仕方なく言った。



「お母さんの部屋にあるわよ。まったく……ちゃんと寝ときなさいよ」



そう言うと、お母さんは仕事で家を出て行った。


私は「いってらっしゃーい」と笑顔で送り出し、さっそくお母さんの部屋に行った。



お母さんの部屋に入るのは久しぶりだな、と思いながら少し埃をかぶったアップライト・ピアノがあった。


学校のグランドピアノにはさすがに敵わないけど。



私はイスに座って蓋を開ける。


白と黒の鍵盤。

これで奏先輩や雪先輩はあんなに綺麗な音を出す。



昔の私だったら自分からピアノを弾こうとすることなんてなかったのに。



私はドの鍵盤を叩く。


ポーンと響く音は、私の小さかったころと全然変わらない。



私は両手をのせて、昔習った“エリーゼのために”を思い出した。


弾けるかな?


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