風にのせて君へ
私は白と黒の鍵盤で曲を奏で始めた。
黒鍵をよく使うこの曲は、特徴的で好きだった。
曲のクライマックスに入り、私は演奏によりいっそう力を込めた。
だけど、
弾くことと聴くことはやっぱり別らしい。
調子よく弾けていたところで音を外した。
広がる不協和音。
私の中に溜まる屈辱感。
誰かが、私のことを嘲笑っている。
不安、恐怖、喪失感……
音が、零れていく。
私の額からはうっすら汗が滲み始めていた。
「っ!」
私は鍵盤をおもいっきり叩きつけた。
いつもこうだ。
私がピアノを弾くと、いつもこうなる。
得体の知れない恐怖に襲われて、
そんな自分が嫌になる。
私は息が切れていた。
軽いめまいもしてきた。
「やっぱり、私には無理なんだ……」
私はゆっくりとピアノの蓋を閉じた。