風にのせて君へ


* * *


音楽室から逃げ出した私は、

廊下で一番会いたくない人に会ってしまった。



「乙冬ちゃん」



背中から声をかけられて
私は足を止めてしまった。


声で誰かわかってしまった。



「どうしたの、そんなに急いで」



会いたく、なかったです。


私は振り返って、
雪先輩と向き合った。



「今から音楽室に行こうと思ってたの。よかったら一緒に行かない?」



何も知らない雪先輩がちょっとだけ嫌になった。


こんな、もやもやもなくて

優しくて

大人で。



「ごめんなさい、ちょっと用事があって……」



私がそう嘘をつくと雪先輩は「そうだったんだ、ごめんね」と言った。



「はやく行ってあげてください」



雪先輩はいつもと違う私に戸惑いながらもうん、と言って音楽室へ行った。


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