風にのせて君へ


「これで弾けるだろ?」



私をピアノの前に座らせる奏先輩。



ドクン、


とずっしりとした足音が近づく。



奏先輩は何も言わず、私が弾くのを待っている。


……弾かなきゃいけない。



そっと、自分の手を見る。


微かに震えている。




私は、その震えている手を鍵盤にのせた。


ポーンと響く高いソの音。


シャープもフラットもつかない、比較的簡単な曲。


中盤までは順調。

この調子で最後まで……!



そう思ったとき、指に力が入って音をはずした。



うそ。



抜ける音。

無いはずの半音。


どうして!

どうしていつも、こうなるの!


焦る気持ちが暴走して、止められない。


嫌なのに、

こんな音……!





「へたくそ」





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