粗目―ざらめ―
「あら」
母が立ち止まる。

「……綺麗ね。……お祭り、行ったわね」
「……うん」

あれは、いつの夏祭りだったか。

叶子がまだ小学生の頃だ。父親もまだ家にいた。


『叶子ちゃん、これ着てごらん』
赤い浴衣を出して、母が笑う。
『さあ、お祭り行きましょう。仕掛け花火、近くで見たことないでしょう』

最近は父親との冷戦でいつも不機嫌な母が、その日はにこやかだった。
叶子はそれが、単純に嬉しかった。

ただ、出掛けるとき、一瞬顔を曇らせた。
『お父さんは行かないの?』
叶子がそう発言したときだ。


『お父さんは留守番しているよ。楽しんできなさい』
そういって、父は叶子に二千円渡した。叶子には大金だったからびっくりしたけれど、母親も何も云わなかったので、そのまま帯とお揃いの巾着にお金を入れた。


『行ってきます。おみやげ買ってくるね』
はしゃぐ叶子に、父は曖昧な笑みをむけるだけだった。

最寄りのバス停まで、母は無言で叶子の手を引いた。
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